STEP3 会社の組織を整える
取締役・代表取締役の選任
小規模会社だからこそ気をつけなくてはいけない落とし穴がある
取締役にまつわる義務・責任・リスクをしっかり押さえておこう
取締役の「選任」「解任」システムの隠れたリスクを回避しよう
取締役は原則として、株式総会で選任されます。株主が自分ひとりだけで、取締役も自分ひとり、という会社の場合も、形式的ですが株主である自分が取締役として自分を選任することになります。
取締役の解任も、株主総会での決議が必要です。決議の種類は「普通決議」ですから、議決権の過半数を有する株主が出席し、その過半数が賛同すれば決議となります。たとえば株主の総数が3名の会社で、2名の株主が社長を解任したいと思えば株主総会で決議され社長解任となってしまいます。従って社長としては、だれを株主にするかという「株主構成」にも気をつけなくてはいけません。
家族で経営していきたいなら絶対守るべき「取締役選任」のポイント
家族や創業メンバーを中心に会社を運営していきたい場合、取締役を選任するにあたって重要なポイントがあります。株式譲渡制限会社で認められているシステムですが、取締役を株主に限定できるのです。限定する場合には、定款にその旨を記載する必要があります。
取締役が1名の場合
会社の意思決定、業務の執行、どちらもひとりの取締役が行います。
取締役が2名以上の場合
会社の意思決定は、取締役の多数決によって行われます。
業務の執行権限は、ひとりひとりの取締役に与えられています。
会社法では「取締役になれない人」が決められている
会社法では「取締役になれない人」が以下のように定められています。それ以外の方であれば、株主総会の承認を得て取締役になることができます。
少々意外ですが、未成年である自分の子どもを取締役にすることも、法律上は可能です(実際に取締役としての責任を果たせるかどうかという社会的な是非を問う意見がありますし、民法により保護者の同意は必要です)。
法人 | 会社などの法人は、取締役になることができません。 |
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成年被後見人、被保佐人 | 高齢・病気などの理由によって通常の判断力を失っているため、裁判所から後見人や保佐人がつけられている人は取締役になることができません。後見人・保佐人がつけられているのは「財産管理ができない」と判断されているためです。 |
会社法・証券取引法・破産法など会社に関連する法律に規定される罪を犯し、刑に処せられ、または刑を受けることがなくなった日から2年を経過しない者 | 会社に関係する法律を犯した場合、取締役にはふさわしくないとされ、就任を禁じられています。 |
その他の犯罪によって禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の者を除く) | 罪を犯して有罪となり、禁固刑以上の判決が出た場合、刑の執行中は取締役になることはできません。 |
取締役解任の条件を変更し、解任されるリスク・解任できないリスクを防ぐ
取締役は、株主総会の普通決議で簡単に解任ができてしまうリスクがあります。これを回避するには、定款で取締役解任の条件を厳しく規定する方法があります。
たとえば「取締役の解任を行うには株主全員の同意を必要とする」と条件の変更をすることができます。ただしこの場合、取締役が2名以上いる会社でそれぞれが株主であるときは、逆に解任したくてもできなくなってしまいます(解任されようとする本人も株主なので、同意しない権利を行使することができるためです)。
また解任の条件は、議決権を行使することができる「株主の議決権の3分の1」未満に緩和することはできません。
手間と費用を抑える「取締役の任期設定」のひと工夫とは
特定の地位に就いている期間を「任期」といいますが、取締役の任期は会社で定めることができます。通常は2年ですが、定款に定めれば最長で10年まで延長できます。10年以内であれば3年でも5年でも自由に設定できます。
自分ひとりが取締役である場合は、取締役の交代を考える必要はありません。任期が切れたら、また所定の手続きをして更新すればよいのです。このように同じ人が同じ地位を重ねて勤めることを「重任」といいます。
重任には登記の手続きをする手間や手数料がかかりますので、自分ひとりが取締役の場合は最初から任期を最長の10年にしておいたほうがよいでしょう。
ひとり取締役のケースでも、任期ごとの役員重任登記を忘れずに
「重任」は任期が終了したとき同じ役員が選ばれることで、役員の任期を更新することを意味します。ここで役員とは、取締役、代表取締役、監査役、会計参与などを指します。
役員の任期が切れたときは、株主総会を開いて役員重任の決議を行います。それを議事録に残し、任期更新の登記をします。この一連の手続きを「役員重任登記」といいます。登記には費用がかかりますが、適正に登記を行わないと数万円の罰金が科せられてしまいます。
取締役が自分ひとりのケースでも、必ず役員重任登記を行います。取締役の任期を10年と定めたら、任期が切れた10年後に株主総会を開き、「役員の任期が終了し、同じ人物が重任した」という議案を承認し、登記します。
思わぬ落とし穴にはまらぬよう「取締役の禁止行為」を熟知しておこう
取締役は、会社に損害を与える恐れのある「利益相反取引」「競業取引」を禁じられています。これらは悪意がなくても行ってしまうことがあり、その結果責任を問われる可能性がありますので注意が必要です。
ただし取引を行った方が会社にとってよい理由があり、それを株主総会などで説明して承認を得られれば取引を実行することができます。承認は、取締役会を置いていない会社は株主総会、置いている会社は取締役会で得ます。
利益相反取引
取締役は、自分個人と会社との間で、勝手に取引を行うことは禁じられています。取締役と会社間の取引は、両者の利益が衝突する恐れがあるためで、こういった取引を「利益相反取引」と呼びます。
たとえば会社が所有している土地を取締役が購入する取引では、会社はより高い値段で売りたいですし、取締役個人はより安い値段で購入したいわけで、利益が相反します。このケースで取締役が通常より安い値段で購入した場合、取締役は個人として得をしますが、会社は損失となります。一方で個人であり、一方で会社の代表である取締役が取引をするのはこの点で問題となるのです。
こういった取引を行う際には、取締役は必ず株主総会の承認を受けなければなりません。取締役は権限が強く不当な利益を得ようと思えばできてしまう立場にあるため、売買取引をはじめ、取締役が会社を自分の債務の保証人とするなどの利益相反行為を厳しく監督する必要があるのです。
競業取引
「競業」とは、同じ業種の事業を営むことを指します。取締役は当然のことですが会社内部の事情に通じ、業務上の秘密を知っています。そのような立場の人間が自分や第三者のために同業を営めば、会社に損害を与える可能性があります。もっとも考えられるのは、取引先を奪われるなどの損害です。
会社の利益をきちんと守るためには、利益相反取引と同様、競業にも制限をかけ、株主総会での了承を義務づける必要があります。
会社の運営システムを左右する大きな鍵は「取締役会」の有無
「取締役会」は、取締役が3名以上いれば設置することができます。会社の業務運営に関するさまざまな事項を決定し、またそれぞれの取締役が適正に仕事を行っているかどうかを監督します。公開会社では必ず設置しなければなりませんが、小規模な株式譲渡制限会社であればとくに設置しなくても構いません。取締役会を設置するかどうかで会社の経営システムは大きく変わります。
取締役会を置いていない会社は、株主総会でさまざま業務に関わる意思決定を行います。取締役会を置いている会社は、取締役会で意思決定を行ってから株主総会で承認を得ます。
取締役会では、重要な業務執行や重要な財産の処分、社債の募集などの決議をします。
取締役会の招集
取締役会は、取締役が集まって行います。定款違反などの重要な事項がある場合には、株主も招集することができます。招集するための通知は開催の1週間前までに行う必要がありますが、取締役全員の同意があれば省略も可能です。取締役会で決議されるには、取締役の過半数が出席しその出席者の過半数の同意が必要です。また定款に定めておけば、取締役会の決議を省略し、書面やメールでの全員の同意によって決議とすることができます。
会社を側面から支える「会計参与」と「監査役」
「会計参与」と「監査役」は、会社の運営を側面から支えていく重要な機関です。しかしどちらも設置は任意ですから、設立時には両方とも設置せず、途中から監査役のみ設置するということも、定款を変更すれば問題なくできます。
会計参与と監査役は、どちらも会社の役員の扱いになります。社内の取締役が兼任することはできず、同様にその他の会社の関係者や子会社の関係者が兼任することもできません。
役職 | 就任できる人の資格 | 任期 |
---|---|---|
会計参与 | 会計の専門家である税理士・公認会計士のみ就任できる | 原則2年・定款に定めれば最長10年 |
監査役 | 税理士・公認会計士でなくても就任できる/td> | 原則4年・定款に定めれば最長10年 |
設置任意の「会計参与」をあえて置く3つのメリット
会計参与の主な仕事は、取締役と共同して決算書を作成することです。ほかに株主総会や取締役会で計算書類の説明を行ったり、会計参与報告書の作成を担っています。会計参与の設置は任意ですが、これを社内に設けるといくつかメリットがあります。
◇決算書の信頼性が向上する
◇金融機関の融資条件等が有利になる可能性がある
◇会計の専門家なので、監査役より高いチェック機能が期待できる
厳密な会計基準に沿った正確な決算書を作って社外にアピールしたい場合には、会計参与の設置は大変有効といえます。
ただし設置する際には注意点があります。
会社の機関として会計参与を組み入れると、当然ですが経営や経理についてルーズな作業は一切許されません。従って経営意識が相当に高い会社でないと、少々負担に感じる場面が出てくるかもしれません。
また会計参与が加わって決算書を作るときは、厳密な会計基準に則って作業が行われます。たとえば損失が出ていない年度でも、次の事業年度で損失が見込まれるときはその一部を今期分として計上しなければならない事態も生じます。会社の決算書がかなりシビアなものになる可能性があるのです。
小規模会社の社長が伸び伸び業務を運べる「監査役」設置のコツ
監査役は、経営者がきちんと業務を行っているかをチェックする機関ですが、監査内容の上から「会計監査」と「業務監査」の2つに分けられます。
小規模会社では、監査の範囲を会計監査だけに限定することができます。定款でそのように定めておくと、株主による監査権限が強化されます。これは社長が自分で業務を行って自分で監査するという閉鎖的なシステムともいえますが、シンプルにした分、自分の思い通りに業務を運びやすくなります。
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